中村 正人
1.何をこの講義で取り扱うか?
本講義は教養学部で理工学を学ばれる学生さんに太陽系内の様々なプラズマ現象を理解してもらうために行うものです。講義は本郷の理学系研究科地球惑星物理学専攻の教官によって行われます。宇宙科学研究所から出張してこられる教官は全て東京大学の教官を併任しています。カリキュラムは以下のように考えています
講義日程予定
4/15 イントロダクション 中村
4/22 太陽系を満たす太陽からの風
向井
5/6 地球磁気圏と太陽風
中村
5/13 地球を取り巻く放射線帯
向井
5/20 極地を彩るオーロラ
林
5/27 オーロラ粒子のふるさと
向井
6/3 地球磁気圏の構造
飯島
6/10 地球磁気圏境界層の物理
寺沢
6/17 地球磁気圏尾部のダイナミクス
飯島
6/24 電離層の物理
小山
7/1 大気の人為変質とオゾンホール
岩上
7/8 磁気圏をもつ太陽系の天体
中村
7/15 火星周辺プラズマ研究の現状と将来
山本
7/22 計算機の中に磁気圏をつくれるか?
星野
飯島健、寺沢敏夫、林幹冶、岩上直幹、中村正人
東京大学大学院理学系研究科 地球惑星物理学専攻
向井利典、小山孝一郎、山本達人、星野真弘
文部省宇宙科学研究所
2.参考書
ではまず参考書について説明をしておきましょう。特に地球周辺のプラズマ現象、つまりオーロラや地球磁気圏について一般の方々に解るように書かれた本に以下のようなものがあります。
啓蒙書
地球から宇宙へ −プラズマの海の孤島− 小口高、河野長 丸善
オーロラ−地球を取り巻く放電現象− 赤祖父俊 一中央公論
宇宙空間への招待 西田篤弘 岩波新書
神秘の光オーロラ 小口高 NHKブックス
宇宙空間の科学 小口高 NHKブックス
オーロラと磁気嵐 上出洋介 東大出版会
地球・環境・惑星系 パリティブックスPOPScience
さらに、皆さんのように大学で勉強するレベルの人たちには次のような教科書があります。
詳しく勉強したい人のための教科書
宇宙空間物理学 大林辰蔵 物理科学選書5 裳華房
超高層大気の物理学 永田武・等松隆夫 物理科学選書6 裳華房
地球物理概論 小嶋稔編(國分、林他) 東大出版会
太陽惑星環境の物理学 前田担 共立出版
地球連続体力学 寺沢他 岩波講座地球惑星科学第6巻
比較惑星学 中村他 岩波講座地球惑星科学第12巻
Basic Space Plasma Physics, Baumjohann, W. and
R. A. Treumann, Imperial College Press, 1996.
Introduction to Space Physics, ed. Kivelson, M. G. and C. T. Russell,
Cambridge University Press, 1995.
3.宇宙をみたすプラズマ

Sahaの電離式。c=13.6eVは水素原子の電離エネルギー
プラズマは通常高い温度にあり、正に帯電したイオン(原子核及びその周りをまわる電子よりなるが、電子の数は通常の原子の状態より少ない)と負の電荷を持つ電子から構成されています。全体として電気的に中性をたもっています。
一般に、熱平衡の電離度は電離が光の吸収によるか、または電子の衝突によるかという反応機構に関係なく、電離エネルギーだけで決まります。
電離度xを
と定義すると次のようなグラフが書けます。温度が上がるに従って水素ガスが分離して水素原子のガスとなり、さらにそれが電離してプラズマとなる事がわかるでしょう。典型的な電離の温度は1万度から10万度程度です。
星間ガス
O型、B型の高温の星のまわりでは Lyman領域(<912Å)の紫外線によって水素原子の大部分は電離しています。
→HII領域 例えばオリオン大星雲
温度は104Kの程度
O型、B型の高温の星から10-100パーセク離れると星間ガスは中性原子となります
→HI領域 温度は低い
プラズマの特徴
1.電離しているが全体として中性
1−1.電磁波がプラズマ中を通過するときプラズマと相互作用して様々なプラズマ波を励起
1−2.デバイ遮蔽
2.磁場を閉じこめた流体として振る舞う(MHD:Magneto-Hydro
Dynamics)
太陽系
すでに述べたように、高温の星の周りは広い範囲で星間ガスが電離していますが、しかし高温の星のまわりでなくても、星のすぐ近傍は電離したガス(プラズマ)で満たされています。
→太陽風
太陽風は太陽から吹き出すプラズマの流れです。太陽風の存在は理論的に予想されてきました。もし太陽風が無い状態、つまり太陽の周りのガスが太陽の重力で束縛されている状態(静水圧平衡)を仮定すると
![]()
が成り立ちます。ここでRは太陽中心からコロナ基部までの距離です。コロナの温度106Kを代入すると無限遠方での圧力比は
ですが、この値は現実の値よりかなり大きい。従って、現実にはコロナでの圧力と太陽系外縁部との圧力の差によって太陽からプラズマが流れ出ていると考えることが自然です(Parker,
1958)。これを式であらわすと次のようになります。解を次のグラフに示しておきます。

ヘールボップ彗星
ダストテールとイオンテール
4.地球の磁気圏
地球磁気圏
地球の磁気圏については、これからおいおい述べていく事になるでしょう。上に載せた図は磁気圏が太陽風との相互作用によりどのように形成されるか、あるいは磁気圏がどのような構造を持っているかを示しています。
磁気圏の物理を考える上で重要なポイントは、これが非平衡系の物理であるという事です。
太陽風からエネルギーや運動量が地球磁気圏に流入
流入の仕方は太陽風中の磁場(IMF)の方向によって大きくかわる
またエネルギーの蓄積と解放過程は常に研究者が考え続けている事です。
サブストーム(オーロラ、磁気嵐、リングカレント)
磁力線再結合(リコネクション)
ではここに磁気圏各部を満たしているさまざまなプラズマの密度と温度を示しておきましょう。
5.磁気圏の探査
磁気圏を探るためには1つの探査機を飛ばしただけでは多くの事はわかりません。これは広大な空間を1つの衛星ではカバーできないという事だけでなく、1つの衛星ではそこで観測される物理現象が時間発展を追っているものなのか、空間変化を捉えているのか、区別が付かないからです。90年代を代表する大きな国際プロジェクトに
International Solar Terrestrial Project
(ISTP)と呼ばれるものがありました。
地球磁気圏の探査
日本:宇宙科学研究所
アメリカ:NASA
ロシア:ロシア宇宙機構
ヨーロッパ:ESA
ジオテイル:地球磁気圏遠尾部
ウィンド:太陽風
ポーラー:極域磁気圏観測
インターボール・テール:磁気圏近尾部
インターボール・オーロラ:極域
ソーホー:太陽観測
6.他の太陽系の天体
磁場を持つ星
水星、木星、土星、天王星、海王星
→ 磁気圏をもつ
磁場を持たない星
彗星、金星、火星
→ 太陽風と直接相互作用をする
7.宇宙空間プラズマの基礎知識
この章では簡単にプラズマの基本的な性質についてメモしておきます。
7.1 磁力線はプラズマと共に動く
一般化されたOhmの法則
(7.1)
プラズマ中では磁力線を実在の存在として扱うことが出来ます。これはプラズマが理想電磁流体(電気伝導度が無限大)のときに成り立ち、
磁力線の凍結(frozen-in)と呼ばれます。
(7.1)の第2項以降が無視できる時
(7.2)
の関係が成り立ちます。
7.2 磁場は張力を持つ
プラズマに働く力は
(ローレンツ力)
7.3 プラズマの圧力平衡
プラズマは磁場の持つ圧力、プラズマ自身の圧力、また全体として流れているときの同圧をもち、これらが釣り合って異なるプラズマの境界を決めています。各々の圧力は次のように現されます(CGS単位系)。
磁場の持つ圧力
プラズマの動圧
プラズマの持つ圧力 ![]()
7.4 温度
温度は通常電子ボルトで表します。定義より
(7.3)
kはボルツマン定数、Tは温度、eは素電荷であるので1eVは11604Kです。
GIFファイル版
中村 正人
理学部地球惑星物理学科 惑星進化大講座