波動粒子相互作用について


磁気圏および太陽風を構成している宇宙プラズマは無衝突プラズマである。その巨視 的な振る舞いは、プラズマを単一の流体としてみなすMHD(Magneto-Hydro-Dynamics) 理論で記述される。理想的なMHD理論では、磁力線とプラズマの流れは固定されてお り、磁気圏構造のダイナミックな変化を記述することはできない。磁気リコネクショ ンに代表される磁力線のトポロジーの変化には理想MHD近似に現れない以下に列挙する 複数のミクロスケールの効果が関与している。 (1) ホール効果:イオンの粒子的な振る舞いにより、イオン流体が電子流体と異な る動きをする効果。 (2) 電子の温度勾配:電子が加熱されて分布関数の形状が空間的に変化することに より、電子の圧力勾配が生じる。 (3) 電子の慣性効果:電子流体の加速・減速の効果。

これらの効果は、イオンの慣性長(光速/イオンプラズマ角周波数)よりも小さな空 間スケールにおいて重要な役割を果たす。イオン慣性長は、アルフベン速度/イオン サイクロトロン角周波数とも表せる。この空間スケールでは、イオンのサイクロトロ ン運動の効果が顕著になり、磁力線に平行に伝播する直線偏波のアルフベン波が、左 回り(Lモード)と右回り(Rモード)の異なる円偏頗の電磁サイクロトロン波に分 散関係が分かれて、イオンおよび電子との共鳴による波動粒子相互作用により、粒子 の加速・加熱を生じる。特に(1)のホール効果はイオンのサイクロトロン周波数か ら低域ハイブリッド共鳴(LHR)周波数付近の波との波動粒子相互作用によって現れ る。(2)の電子温度の変化は、磁力線に垂直な方向に伝播するイオンサイクロトロ ン波の波長スケール即ち、イオンのサイクロトロン半径のスケールで現れる。また、 (3)の電子慣性の効果は、さらに小さな電子の慣性長(光速/電子プラズマ角周波 数)よりも小さなスケールで有効になる。これらの3つの項は波動波動相互作用等の 非線形過程を通じてスケール間結合しており、その競合関係は時間空間で複雑に変化 している可能性がある。

宇宙プラズマ中で上記3つの過程の中の何れの物理過程が主 となってMHD近似が破れているのかという事を明らかにするには、それぞれの過程 でプラズマ波動と粒子を観測することが必要である。しかし、粒子観測ではラングミ ュア波のような電子プラズマ波と同じ時間スケールで観測することは難しいことか ら、高周波を含むプラズマ波動の観測はきわめて重要となる。特にプラズマは分散性 媒質であり、その中には様々な伝搬速度、郡速度、外部磁場との伝搬角、偏波を持つ 波動が存在する。これらの波動の多くは線形理論に基づく分散関係を満たす周波数ω と波数kによって記述される連続波であるが、GEOTAIL衛星で多く観測されているよう な静電孤立波のような非線形波動も存在している。従って、波動のスペクトルのみな らず波形そのものを観測することも必要である。

SCOPEは複数衛星による編隊飛行を行う日本初のプロジェクトである。編隊飛行 による多点観測により、時間変化と空間変化の分離をすることができる。静電孤立波 のように 磁力線に沿って高速で伝播するポテンシャル構造では、同じパターンの波形を2つの 衛星で観測してその時間差を求めることで、ポテンシャルを形成している電子のドリ フト速度を決定することが出来る。また、スペクトルの広がりからプラズマの熱速度 や高エネルギー成分の密度を推定することも可能である。電磁波の偏頗を観測するこ とにより、電磁波の到来方向を決定し、さらにそれを複数衛星で観測することにより 電波の発生源の位置を推定することも可能となる。以下に、静電波と電磁波の場合に 分けてを2つ以上の衛星で同時観測する際の適切な衛星間距離について考察する。

(1)静電波 ラングミュア波および静電孤立波を励起している電子ビームの存在について検証し、 その加速・減速の過程を直接観測する。静電波を励起する電子ビームは磁力線沿いに 高速で流れる。デバイ長の数倍〜数十倍程度の距離で磁力線に沿って2点観測をすれ ば、ポテンシャル構造の伝搬速度を求めることができる。垂直方向には、イオンのサ イクロトロン半径のスケールで静電波の構造が変化することが期待されるため、磁力 線と垂直方向にイオンサイクロトロン半径のスケールより少し小さい距離で観測すれ ば、静電波の空間構造について緩やかな変化を見ることが出来る。

(2) 電磁波 静電波の観測は、その場所でのプラズマ粒子との相互作用を測っているのに対して、 電磁波は一般的には、遠方からの伝搬の効果を含んでおり、また波長も長くなるた め、静電波の場合のように小さいスケールで多点観測したとしても、受信される波の 特性を大きく変化しないものと想定される。電磁波を観測する意義は、その伝搬特性 を用いて、波の発生領域の位置と大きさをリモートセンシングすることにある。電磁 波を励起している領域とその広がりを推定するには、波源を異なる角度から見ること が必要である。リコネクション領域やショック等の境界領域の厚みは、イオン慣性長 程度であり、波の発生領域はイオン慣性長程度に広がっている可能性がある。したが って、少なくともイオン慣性長よりも大きな空間スケールで電磁波の観測を行う必要 がある。また、低周波の電磁イオンサイクロトロン波の観測する場合にも、その波長 がイオン慣性長程度であることを考慮すると、イオン慣性長よりも1オーダー程度大き い空間スケールで観測することが必要である。1つの衛星で電磁界の3成分が計測さ れており波の到来方向が決定できるという条件のもとでは、最低3つの衛星があれば 3次元空間で波源の位置を推定することができる。

以上の静電波観測と電磁波観測のそれぞれの場合において、適当な衛星間距離は変化 するので、2つの異なるスケールで衛星間距離を設定する必要がある。衛星の数は電 磁波観測のために同じ仕様の衛星を3機、その内の1機に静電波観測のための近距離 衛星を1機追加して、合計4つの衛星で編隊を組むことが望ましい。