SCOPEミッションの戦略


SCOPEの問題意識とは、グローバルなダイナミクスのモニターと同時に、その中での鍵となる領域で鍵となる非MHD効果を引き起こすダイナミクスを把握することにある。従ってその戦略は、鍵となる領域内に編隊を配置することによって時間・空間変化分離しながら、電子スケールの分解能で観測、しかも、それを未観測パラメータのない観測器の組み合わせで行なうことにある。また、この鍵となる領域でのSCOPEの観測はその領域外でのダイナミクスと関連付けられることで理解の進展へとつながるものであり、その意味でグローバルダイナミクスをモニターするMC計画や地上多点観測網と連携して行なわれる必要がある。さらに、鍵となる領域内での電子スケールまでのスケール間結合は、実証研究と理論研究を密接に連携させて、初めて真に明らかとなるであろう。

衛星間距離・編隊構成について

SCOPEでは、電子スケール分解能を持った大型衛星(親機)1と、粒子観測の時間分解能が落ちるより小型(子機)複数で編隊を構成し、鍵となる領域で鍵となる非MHD効果を引き起こすダイナミクスを把握する。基本案では子機3である。親機では、高速電子観測器と波動観測器の両者で直接相関をみてそこでの過程を電子スケールまで分解する。子機では、重量の関係から波動観測器のみで電子スケールの情報の抽出を行う。親-子編隊で波動粒子相互作用の3次元的把握を行なう、という立場に立てば、衛星間距離の上限に制限を与える(イオンラーマー半径程度が望ましい)。鍵となる領域内部の物理を明らかにするための視点は他にもあり、この視点での最適衛星間距離は必ずしもこの制限と合い入れるわけではない。このことは、衛星間距離を可変にする必要があること、あるいは、編隊構成を基本案よりも大きくする必要があること、を示唆する。この点に関しては後ほど詳細に述べる。

観測器について

観測機器ごとの時間分解能

-----------------------1msec 10msec 100msec 1sec 10sec ---

プラズマ波動 ------************************

高分解能電子 --------------------************************

電子(子機) ------------------------------------**********

イオン -----------------------------------------**********

SCOPEでの観測項目はプラズマ、イオン種、高エネルギー粒子、プラズマ波動、電磁場、と基本的なパラーメータであるが、目的達成のために以下の開発を行なう。

SCOPEでは電子観測の時間分解能をあげて、電子スケールまで分解することを目指す。具体的には 10 msec の時間分解能を考える。ある構造が衛星に対して 100km/s の相対速度で動くとして、1km の空間分解能でその空間構造を決定することになる。これは、バウ・ショックや磁気圏境界といった最も条件の厳しい領域においても、電子慣性長の空間分解能を持つことを意味する。

電子スケール分解能の必要性とともにGeotail衛星の経験から学んだこととして、従来の粒子観測のエネルギー範囲では必ずしも十分ではないこと、がある。これまでのプラズマ計測では 40 keV までのイオン・電子を計測することが行なわれてきた(低エネルギープラズマ計測)のであるが、ダイナミックな状況ではこの上限よりもエネルギーの大きい粒子からの寄与が無視できないことがあり、そのような現象として面白い時に正確なデータ(流速、プラズマ圧力、など)が得られないという問題点があった。SCOPEにおいては局所ダイナミクスの精密な計測を至上命題とするので、従来のデザインに近い粒子観測器に加えて、20-60 keV の中間エネルギー領域に特化した観測器を開発し搭載する。また、それ以上の高エネルギー領域を計測する観測器も充実させ、ダイナミックな現象にともなってジェット加速が起きているような状況でも、正確・精密な局所ダイナミクスの把握を行なう。

もう一つの必要なエレメントとして、高精度化された電場計測を挙げておく。電子ダイナミクスを理解するときに一つの焦点となるのは、電子流速が電場ドリフトからどれだけずれているか、ということがある。したがって、電子ダイナミクスの議論のためには高精度の電場計測が望ましい。特に子機に高時間分解能の粒子観測を望めないのであれば、高精度の電場計測によって、電子の振舞を高い時間分解能である程度把握することは重要である。

MC計画との協力について

MC計画とは米国で進められている磁気圏内に数十個の小型衛星を配置してMHDパラメータ(密度、圧力、イオン流速、磁場ベクトル)を計測し、グローバルダイナミクスを把握しようとするものである。 磁気圏ダイナミクスの衛星による「その場」観測には、常に時間・空間分離問題がつきまとってきた。MC計画は、この問題を根本的に解決しようとするものである。

しかし、このMC計画にも弱点があり、実に、SCOPE計画はこれを補うことができる。ダイナミックな現象には鍵となる領域が必ずあり、その鍵となる領域において電子スケールまで分解して観測する事がその現象の本質的理解には必須である。SCOPEは適切にデザインされた高機能観測器を搭載することでまさにこの部分、つまり、磁気圏全体のダイナミックな変化の中で発生し、その全体変化を支配することになる、「鍵となる領域での鍵となる現象」を把握することを目指す。ここで強調したいのは、この本質的な理解の形を完成させるにはグローバルな状況をモニターするMC衛星群と電子スケール分解能をもったSCOPEという組み合わせが必須であるということである。MC衛星群打ち上げ予定は現在では2012年であり、SCOPE計画との同期は十分に可能であり、同期させるべきことであると考える。

MC計画のもう一つの問題点は、磁気圏はそれ単体で存在するものではなく、磁力線を介在して電離層とカップリングしており、その相互作用する総体としてのダイナミクスを理解する必要があるのに、MC衛星群では電離層は全くカバーされない、ということがある。その不備を補うものとして、地上多点観測網による磁場・電場観測がある。その観測を MC衛星観測と繋げる事によって磁気圏−電離圏結合系のモニターが可能になる。

理論・数値シミュレーション研究との連携

Geotail計画が大きな成果を出した要因として、数値シミュレーションとの連携を指摘することができる。Geotail計画の成果として大規模現象におけるイオンダイナミクスの重要性を確定したことを挙げることができるが、これにはイオン速度分布関数の精密な計測と同時に数値シミュレーションが必須であった。粒子としてイオンが大規模ダイナミクスの中でどのように振舞うかを、シミュレーションの助けを借りずに予想することですらかなり困難である。ましてや、逆に、イオンの粒子性がどのような影響を大規模ダイナミクスに与えたかを正しく考察することは、シミュレーションなしにはほぼ不可能であるからである。

Geotail計画のシミュレーションパートナーとしては、イオンダイナミクスに焦点を当てたもので十分であった。SCOPEミッションのパートナーとしては、電子ダイナミクスまで、しかも、大規模現象におけるMHDスケールから電子ダイナミクスへのスケール間結合を捉えるものでなければならない。SCOPEデータの解析において、スケール間結合という視点はいつでも有効であろうと考えられるが、具体的な状況で、どのエージェントがどういうタイミングでどのように機能して、ということ考察するには、同様な、あるいは、その本質を取り出した状況のシミュレーションを行い、データと計算結果を比較する、ということが必須となるであろう。逆にシミュレーション研究の立場から見れば、SCOPEの観測結果は実証的裏付けを与えてくれるものである。