衝撃波 宇宙空間プラズマにおける衝撃波物理の根本的問いは、高エネルギー粒子加速機構とエネルギー散逸機構にあるが、それぞれに対して20世紀末期に大きな進展が見られた。すなわち、エネルギースペクトルにおける冪乗則が衝撃波統計加速理論によって説明できたこと、並んで、超臨界衝撃波における被反射イオンによる付加的なエネルギー散逸機構が数値実験および観測の両面から確認されたことである。これらの成果によっていわば衝撃波の「標準パラダイム」が確立したと言えよう。しかしながら21世紀を迎えた現在、既存の理論では理解できない諸問題が根強く残存し、我々は「標準パラダイム」の限界に直面している。以下では限界の内容を中心として3点の興味を概説する。

粒子加速 衝撃波統計加速理論には単純化のためになされた仮定(注入過程の無視、非線形過程(被加速粒子の反作用)の無視)が存在する。理論的には注入過程・非線形過程の双方について多角的に研究がなされてきたが、現在は諸説が並存しており、観測面からの決着が期待されている。なお、SCOPEミッションによる観測対象は地球前面定在衝撃波(バウショック)と惑星間空間衝撃波に限られるが、これらにおける衝撃波統計加速理論の研究は、太陽高エネルギー粒子の生成機構や、共回転相互作用領域、宇宙線異常成分などの研究分野にも波及するものである。また、衝撃波加速の関連では、被加速粒子としての星間空間起源ピックアップイオンが最近注目されている。ピックアップイオンとは、もともと電気的に中性であった粒子が天体からの輻射(紫外光)によって電離され、背景磁場に捕捉されたものである。宇宙物理学的には高エネルギー天体が星間物質と衝突することでピックアップイオンが生成・加速されることが推測されているに過ぎないが、太陽地球系物理学の範疇ではピックアップイオンの挙動をin situ(その場)観測できる。その場合は4He,3Heを分離・観測できる高感度(g-factor)の質量分析器が必要になる。

エネルギー散逸 衝撃波の研究は、断熱過程で理解できるためアルフベン・マッハ数が小さい領域から始まったが、マッハ数がおよそ3の付近で、イオンスケールの散逸機構が発現する第1臨界マッハ数が発見された。その後、マッハ数が10を超える程度にまでなると電子スケールの散逸機構が発現する「第2臨界マッハ数」の存在が予想されており、現在、大規模数値実験やGEOTAIL衛星の波動観測などからその具体的な機構が議論されている。そこで、この問題の確かな描像を得るため、電子速度分布関数の観測が切望されている。

1次元定常解からの脱却 標準パラダイムに制約をもたらす一因になっているものとして、これまで考察の対象となってきた衝撃波が1次元の定常解であったことが挙げられる。従来議論されてきた粒子加速やエネルギー散逸が、高次元非定常な衝撃波にも有効か否かは示されてはいないことに注意しよう。無論、過去の研究の中ではフォアショックやホット・フロー・アノマリーなどの2次元構造が観測や数値実験により明らかにされてきたが、その手法は統計解析やハイブリッド計算などの限定的なものであった。また、リフォーメーションや中間衝撃波などに代表される衝撃波非定常現象に至っては、時間と空間の分離に関する問題から観測的研究がほぼ皆無であった。次世代の衝撃波観測では従って、時間と空間を分離し、2・3次元構造を抑えた上で、粒子加速やエネルギー散逸を議論することが要求される。

以上、衝撃波研究の科学目標を3つの観点からまとめたが、これらから次期地球磁気圏ミッションに要請されるものは以下の4点である。1)高エネルギー粒子が観測可能な高感度の粒子計測、2)ピックアップイオンをはじめとする複数イオン種の分離、3)電子速度分布関数の高時間分解能、4)多点同時観測による時間と空間の分離。本文書のグランド・デザインに記述されているように、SCOPEミッションはこれらの要請をすべて包括する画期的な計画であり、新たなパラダイムの構築を可能とするものである。