磁気圏境界層における動的スケール間結合

磁気リコネクション: 磁気圏境界層においては、太陽風磁場と地球磁場との間で磁気リコネクションが起きており、それが磁気圏活動の基本的な原動力となっている。磁気リコネクションそのものは MHDスケールのプロセスであり、その効果は磁気圏全体に及ぶほどの大規模なものであるが、その駆動は電流層内での非MHD効果の発動による。従って、電流層内の鍵となる領域で、太陽風磁場や流れの様相といった大規模な状況に呼応したスケール間結合が発生して、磁気リコネクションを駆動する、ということが考えられる。そして、これを実証するのがSCOPEである。MCで境界層の大規模状況をモニターする中、SCOPE編隊で電流層構造を同定、電流層内部ダイナミクスを電子スケールまで分解して観測する、という戦略でこれは可能となる。

磁気圏境界層における磁気リコネクションは、実は理論的にはかなり難しい問題である。というのは、まず、電流層が適正な規格化の下で考えるとかなり分厚いので、現状では磁気リコネクションの駆動過程が不明である、ということがある。また、磁気圏境界層の太陽風側の状況は磁場の方向、流れの様相、プラズマ密度の値、など太陽風の状況に応じて様々にあり得る。それに応じてリコネクションが発生する場所や方向が変化するだろう。しかし、理論研究は、スケール間結合という視点を提供することはできても、複雑な状況においてはそれ以上の具体的な仕組みに関しては多分に定性的であり、むしろ、SCOPEによるよくデザインされた観測によって仕組みが「発見」されるのではないのであろうか。逆にいえば、SCOPEなくして磁気圏境界層における磁気リコネクションの理解、つまりは、磁気圏の基本的活動源の仕組みが理解できない。また、一般化すれば、宇宙における複雑な状況での磁気リコネクションの理解は完成しないのである。

太陽風プラズマのプラズマシートへの直接侵入: 通常の場合、太陽風プラズマは磁気圏(プラズマシート)内に取り込まれる際に加熱されることがわかっている。ところが、太陽風磁場が北向きの状況が長時間続く際には、太陽風プラズマがプラズマシートに加熱されることなくほとんどそのまま侵入するという、無衝突プラズマならではの驚くべき事実が、GEOTAIL衛星の観測等から明らかにされた。太陽風磁場が北向きの時には、太陽風プラズマは脇腹の磁気圏境界層から直接侵入しているらしい。つまり、脇腹の磁気圏境界層の性質は、太陽風磁場の極性によって大きく変わることを示唆するのである。そして、そのことがプラズマシートの性質を変える。プラズマシートの生成という大規模な問題の解決に、磁気圏境界層という、MHDの立場ではその内部構造を分解できない実体の性質の理解が、必須となってくるのである。

尾部低緯度境界層でどのように大規模な物質混合が起こるのか。現在有力と考えられているメカニズムに、K-H不安定に伴う輸送がある。それは、電子の慣性効果が電磁流体スケールの大規模な渦の内部で小スケールの渦を発生させ、それが大規模渦の崩壊を引き起こして物質の混合を促進する、というものである。また、大規模が十分に発達すれば、渦内部で磁力線が引き伸ばされて磁気再結合がおこり、効率良い物質混合が起こるのではないか、という説もある。いずれの場合もMHDスケールの大規模渦運動とその内部での非MHD効果の結合を想定することで、非 MHD効果が大規模な範囲に影響を与えることを可能にしている。そして、これらの説は、プラズマ輸送にともなって電子に非等方的加熱が起きているという、現在得られているデータとも調和的である。

磁気圏において、このようなスケール間結合メカニズムが機能していることを実証するには、SCOPEで想定する観測器スペックが必要である。スケール間結合仮説を実証するには、まず、境界層においてそもそもK-H不安定に伴う渦は形成されているのか?という問に答えなければならない。これには、渦のスケール程度に衛星間距離を持った複数衛星での観測が不可欠である。こうして渦構造を同定し、その内部で高時間分解能観測をあわせて行うことで、渦中で非MHD効果を発動させる物理メカニズムは何なのかという問題に決着をつけることができる。そして、これが磁気圏の大規模構造に及ぼす影響はMC衛星群から同時把握できる。