磁気圏尾部プラズマシート境界層

プラズマシート境界層は、高温のプラズマが圧力を支えるプラズマシートと、磁気圧が支配的で冷たいプラズ マがわずかに存在するローブ領域を隔てている。その極端な不連続から、様々な内部ダイナミクスが期待され るが、その実態は、従来の観測データでは時間分解能が不足しているため、不明な部分が多い。

プラズマシートは通常は温度 5 keV程度の熱いプラズマで満たされている。このプラズマはほとんどは、もと もとは太陽風プラズマであり、太陽風の運動エネルギーが 1 keV程度であることから、プラズマはプラズマシ ートに取り込まれる際に加熱を受けていることがわかる。また、しばしば乱流的な変動が観測されるプラズマ シート内部でも、乱流にともなう加熱があると予測されている。

プラズマシートのプラズマはいくつかの経路をへて供給されたと考えられるが、少なからぬ部分は一旦ローブ 領域に入り、そこからプラズマシート境界層を通って流入したとされる。すると、ローブ領域のプラズマは太 陽風よりもさらに温度が低いことから、境界層においてはイオン・電子ともに強烈な加熱があることが期待さ れるが、その実態はよくわかっていない。例えば、観測的にプラズマシートのイオン・電子温度比は5:1程 度であると知られているが、境界層における加熱過程を理解しない限り、このような熱収支の問題も未解決の ままである。また、加熱と同時に、密度・温度勾配を維持する機構も存在しているはずであるが、境界層にお ける熱流量や温度異方性と境界層構造の関係など、その内部ダイナミクスは謎に包まれている。

実態に不明な点は多いが、現在のデータから境界層のダイナミックな様相は窺うことはできる。プラズマシー ト境界層では、広帯域でプラズマ波動活動が活発である。最近の観測からこれらの波動の少なくとも高周波部 分は静電孤立波から成ることが明らかにされた [e.g., Kojima et al., 1997]。これらコヒーレントな構造と 交帯域波動の共存は何によってもたらされるのか。プラズマシート境界層は、高速のイオン流や電子ビームが しばしば見られる領域でもある。これらの高速流は磁力線を伝わり、地球の電離層まで到達しており、磁気圏 ー電離圏相互作用を知る上でも重要である。プラズマシートがしばしば多成分プラズマから成ることを考えれ ば、境界層での波動粒子相互作用が境界層加熱における電子・様々なイオンへのエネルギー分配にどのような 役割を果たしているのかは興味のある問題であるが、これらの研究のためには、SCOPEでデザインされている高 時間分解能と複数衛星観測の組合せを必要とする。

一方、最近のGEOTAIL衛星観測などから、プラズマシートにおいて太陽風プラズマが冷たいまま侵入して、通常 の熱いプラズマとの共存している、という現象が見つかった。これは、冷たいプラズマが冷たいままでいられ るほどプラズマシート内での加熱が弱い一方で、熱いプラズマをつくり出す過程もどこかで作用していること を示唆する。この加熱へどれほどプラズマシート境界層が寄与しているのか、まったく不明である。また、冷 たいまま侵入したプラズマは、プラズマシート内部で通常の熱いプラズマとはっきりとした境界をもって、つ まり、磁気圏境界層やプラズマシート境界層と異なり、輸送や加熱を伴わない境界面で区切られているように 見えることもある。無衝突プラズマ中の境界層において輸送・加熱があったりなかったりすることは何が決定 しているのか、現在のデータ性能では迫ることができない。

本ミッションでは、これらの命題について、高時間分解能をもつ粒子と波動の同時観測を行ない、プラズマシ ートの高温プラズマがいかに生成され、それがいかに閉じ込められており、プラズマシートそのものがいかに 維持されているのか、を解明する。また、数値シミュレーション等との連携により、境界層の局所ダイナミク スとグローバルなプラズマシートの性質を関連づけ、磁気圏ー電離圏相互作用の理解にも資することが可能で ある。