磁気圏尾部−内部磁気圏遷移領域でのサブストームプロセス

極地の夜空を彩るオーロラの謎を解明したい。 ― 磁気圏物理学は、オーロラに対する理解を深めることを大きな目標として発展してきたといってもよいだろう。しかし、オーロラ・サブストームと呼ばれる爆発的なオーロラ発光現象がいつどのように発生するのかは未だに解明されていないのが現状だ。近年の研究から、オーロラ・サブストームの直接の原因となる擾乱が、地球から約10倍の地球半径ほど離れた夜側の内部磁気圏と磁気圏尾部の遷移領域に発生するらしいことがわかってきた。しかし、この擾乱の原因を巡って@この領域内で直接駆動される、A磁気圏尾部で発生する磁気リコネクション・ジェットがこの領域に到達することによって駆動される、の2つの有力な説の間で論争が続いている。

この論争に決着をつけられない理由は、その重要性にもかかわらず内部磁気圏‐尾部遷移領域の観測が非常に限られていることである。充分な品質を持ったプラズマ3次元分布関数、磁場、電場、等の観測が少なかった為に、遷移領域に発生する擾乱の物理が十分に議論できていない。これまでの遷移領域での観測から、サブストーム時にはダイポーラリゼーション(dipolarization)と呼ばれる、尾部型の磁場配位から非常に速い電磁場の擾乱を伴って急激に双極子型の磁場磁場配位へ変化する現象が発生することが知られている。しかし、ほとんどの場合、ダイポーラリゼーション時のプラズマ観測や電場観測、等、鍵となる観測項目が抜けている為に、いろいろな可能性を絞り込むことができない。

もう1つの大きな問題点は、遷移領域と磁気リコネクション発生領域の同時観測がほとんどないことである。1990年代のISTP計画ではGeotail衛星とEquator-S衛星が2つの領域を同時観測することが期待されていたのだが、不幸な事故でEquator-S衛星の観測機会が失われてしまった。磁気リコネクションと遷移領域の2つの重要な領域間の現象の因果関係について、限られた観測例からは決定的な情報を得ることができていない。Geotail衛星は、地球から20〜30倍離れた磁気圏尾部の磁気リコネクション・ジェットの生成領域を詳しく調べ、「磁気リコネクション・ジェットの生成が観測された場合でもオーロラ・サブストームが発生しないことがある、」ことを明らかにした。つまり、Aの説に立つならば、磁気リコネクション・ジェットが内部磁気圏に到達しても、オーロラ・サブストームの原因となるような擾乱を発生させたり/させなかったりすることになる。「何が擾乱の発生を決定するのか」を知るためには、やはり、2つの領域の同時観測が不可欠である。

SCOPE衛星では、編隊観測によって領域の空間構造を把握しながら、MHDスケールから電子スケールまでにわたるプラズマ・ダイナミクスを観測するので、磁気リコネクション領域と同様に、遷移領域の擾乱の本質の解明を目指すことができる。また、SCOPE衛星は磁気圏全体の変化をモニターするMC衛星群、地上磁場観測網、グローバルオーロラ観測と密接に連携する。したがって、遷移領域内の擾乱の詳細な観測と同時に、その擾乱時の他領域との相関関係を知ることができる。サブストームの磁気圏・電離圏のグローバルな発展をMC等のグローバル観測によってモニターしながら、遷移領域中のサブストームの鍵となる擾乱をSCOPE衛星でその本質を捉えることができれば、長年のオーロラ・サブストームの発生機構に関わる論争に終止符が打たれるはずだ。

 以上に遷移領域の観測目的をオーロラ・サブストームとの関連で述べてきたが、SCOPE衛星が解明すべき遷移領域での擾乱の物理は地球磁気圏固有の問題ではなく、より普遍的な宇宙プラズマの問題へ発展させることができる。磁気圏尾部リコネクション領域のような比較的単純な1次元的電流層構造から内部磁気圏の双極子磁場構造へと変化していく、複雑な磁場配位を持った領域に存在する電流層の安定性という視点で、電流層の安定性やプラズマのダイナミクスを整理することは一般的な宇宙プラズマ物理学の理解にとっても意義深く、他の惑星や様々な天体磁気圏の現象への応用が期待できる。例えば、太陽フレアにおける磁気リコネクション領域とフレア・ループの関係は、サブストーム時の磁気圏尾部領域と比較することができ、SCOPE衛星による遷移領域の知見が大いに応用できるはずである。