衛星間距離・編隊構成について


SCOPEの基本案は親機1子機3の編隊で、鍵領域内で時間空間を分離しながら 鍵プロセスを電子スケールまで分解して把握することにある。 重量の制限から、子機には 10 msec 時間分解能の電子計測器を搭載せず 波動観測器で電子スケールダイナミクスの把握を行なう。 親-子編隊で波動粒子相互作用の3次元的な完全把握をする、という立場からは、 親-子衛星間距離はイオンラーマー半径程度(100 km 程度)であることが 望ましい。一方、子機を親機で観測する電子ダイナミクスへの境界条件 のモニターとして利用するという視点からは、より大きな衛星間距離が 必要となることがある。以下に争点をまとめ、衛星間距離を可変にすること、 あるいは、子機を増やすことで解決することに言及する。

衛星間距離について: それぞれの立場からの最適衛星間距離

波動粒子相互作用解明の立場から: 静電波観測と電磁波観測のそれぞれの場合において、適当な衛星間距離は変化 するので、2つの異なるスケールで衛星間距離を設定する必要がある。衛星の数は電 磁波観測のために同じ仕様の衛星を3機、その内の1機に静電波観測のための近距離 衛星を1機追加して、合計4つの衛星で編隊を組むことが望ましい。 電磁波観測のにはイオン慣性長の10倍程度、静電波観測にはデバイ長の20倍程度 の距離が望ましい。

衝撃波研究の立場から: ミクロな現象にまで踏み込んだ衝撃波観測を行うことを競合ミッションとの比較で考えてみよう。Cluster IIミッションでは衛星間距離が離れており(最小200km)、MMSミッションでは設計寿命以内ではバウショック通過軌道が無い。そしてCluster II、MMS(マグネトシース観測フェーズ)ともに極軌道である。一方、SCOPEミッション原案では、最小距離10km、最大軌道傾斜角数十度以下、遠地点30-40Reとなっており、ミクロな時間空間スケールを分解できることはもちろんのこと、高いバウショック通過頻度が期待されるとともに、平均的にz成分の小さい太陽風磁場に呼応して形成される2次元構造を縦横に観測できる。以上のことから、磁気圏尾部探査用に企画・立案されたSCOPEミッションであるが、衝撃波観測においてもその編隊観測の有効性を最大限発揮できるデザインとなっている。とくに衝撃波のデータ解析は法線ベクトルの決定から始まるため、編隊の立体的な配置は常時必須である。以下では、衝撃波観測に有効と思われる具体的な編隊構成を提案する。

[密集型] 他の観測領域で提案されているものと類似の基本形。子機4機からなる4面体の中心に親機を配置し、衛星間距離はイオンラーマー半径程度(数100km程度)とする。ただし、子機のうち1機はイオンラーマー半径の10倍程度だけ離して上流に配置したい。これによって上流におけるランキン・ユゴニオ条件を常時監視しつつ、衝撃波内部構造や電子スケールダイナミクスを4機編隊(親機含む)によって立体観測することができる。また、上流(状況によっては下流)監視用衛星の存在は同時に衝撃波の到来予測用にも有効である。一定距離離れた監視衛星で衝撃波を観測したのち、時間的余裕をもって親機の高感度粒子計測器を太陽風観測モードから通常観測モードに切り戻すことが可能となる。これにより、最も注目したい衝撃波内部構造が太陽風観測モードゆえに見えないことがしばしばであったGEOTAILミッションでの苦い経験を生かすことができる。

[縦列型」 ある現象(例えばリフォーメーションや電子ホールなど)の時間発展を観測したい場合、1方向に2つの観測点があっても不十分である。観測対象とする構造を可能な限り多くの点で観測しなければならない。そのような場合、各機が衝撃波法線方向にイオンラーマー半径程度あるいはそれ以下の距離間隔で配置されていたほうが有効である。

[散開型] 実はISTP観測によってもバウショックのグローバルな多点観測は少なかった。また、最近では惑星間空間衝撃波の湾曲・波状構造が示唆されており、衝撃波の非定常性や宇宙天気予報などとの関連で注目されている。これらのことから、衛星間距離を地球半径の数倍程度にまで広げた広域観測の重要性が今後増してくると考えられる。隊形はやはり4面体を基本とする。

上では陽に言及しなかったが子機は4機必要である。なぜならば、1)ランキン・ユゴニオ条件の監視役が必要であること、2)衝撃波の法線ベクトルはy, z成分ともに大きな値を持つことが多く、従ってあらゆる角度からの衝撃波通過に備えた多角的な衛星配置にすべきであること、3)次世代ミッションでは時間と空間の分離は必須条件であるが、子機3機では1機欠けただけでこの条件が満たされないのに対して、子機4機であれば親機とあわせて4通りの解が得られるため保証が大きいこと、などが理由として挙げられるからである。ゆえに、衝撃波観測の立場からは衛星間距離を可変にすることよりも、子機数を現案の3機から4機に増やすことを要求する。実際の隊形は常に一定の秩序を維持するものでないことは承知であるが、上記のように衝撃波観測に有効な隊形は複数存在するため、衛星群の軌道設計の自由度は衝撃波観測の立場からは高い。

磁気圏境界渦輸送解明の立場から: 磁気圏境界でのKH渦に伴う「異常輸送」を明らかにしたいという立場からは、境界層構造・渦構造を同定し、その中での親機の相対的位置を把握した上で電子スケールダイナミクスまでを計測したいと考える。したがって、親-子の距離は渦のスケール程度であることが望ましく、具体的な数字としては 1000-3000 km 程度を希望する。

磁気圏尾部リコネクション解明の立場から [1]: 親機では「完全な測定」を、 子機では 磁場と3秒程度(スピンによる)の時間分解能でのプラズマ観測をするものとして、イオン慣性長が 227/sqrt(density)[km]、 density=0.1/cc で 718 km を考慮すれば、Z方向に 500 から 1000km、X/Y方向には 3000 から 6000km の衛星間距離が望ましい。根拠はイオン慣性長の見積りとCluster-IIでの経験である。Z方向に関しては、Clusterでは1500kmぐらい離れた場合では必ず違いがあるので、それよりも小さい分離距離が必要である。また、XY方向に関しては、Clusterの2000km程度分離された場合でも、たいした違いがないように見える。一方、1Reを越えてしまうと、おそらく2点間の変動の相互関係が不明瞭となり、現実的には、最小=3000km の配置から始めて、最大=6000 km への移動するのがよいと考えられる。 

磁気圏尾部リコネクション解明の立場から [2]: 最近のシミュレーション研究の結果から、リコネクション領域のスケールを考える と次のようになるだろう。

 まず、重要な電流層の厚さに対応するZ方向については、シミュレーションの結果 等から電子拡散領域の厚さはおよそ電子慣性長とイオン慣性長の幾何平均 (=ハイブリッド慣性長と呼ぶことにする。)程度になると予想される。 磁気圏尾部の場合は、密度を0.1個として〜100 kmになる。 一方、低域混成ドリフト不安定の非線形ステージに磁気中性面近傍に形成される薄い 電子電流層の厚さは、電子のメアンダリング運動の幅に対応がつけられる。 電子温度が100 eV、ローブの磁場強度が50 nT、電流層の厚さを1000kmとすると高々 〜30 kmである。しかし、低域混成ドリフト不安定とのカップリングによる電子加速 の効果を考慮すると電子温度が等価的に1桁程度大きくなるので、予想される電子 電流層の厚さはやはり〜100 km程度である。SCOPE衛星ではこの電子電流層自体の 内部構造を見るのではなく、背景にあるイオン慣性長程度の磁場変化の中で電子電流 層が如何に発達するのかというクロススケール・カップリング過程を観測したいので、 衛星間距離は最大イオン慣性長、最小ハイブリッド慣性長(つまり、数100 km)に することが望ましい。

次に、Y方向のスケールについては、リコネクション領域で重要と思われる 最小の波長スケールを持つ不安定性は先に挙げた低域混成ドリフト不安定であるので、 最小スケールは(その最大成長波長である)電子ラーマー半径程度である。 (10 nT, 1 keV で、〜80 km)Y方向に伝播する(電流の散逸と関連しうる)電流 駆動型の不安定のモードは、長いものでは数倍のイオン慣性長程度になる。 SCOPEでは、これらのモード間結合の様子を調べたいので親子の衛星間距離は 再び数100 km〜1,000 km程度であることが望ましいと思われる。

最後に磁力線方向のX方向については、構造の方が衛星に対して数100km/s程度で 運動をすると考えられるために衛星間距離を議論することは難しい。 イオンの加速構造を把握するという観点では、イオンスケールの数1,000 kmの 衛星間距離が必要だが、電子拡散領域から出る電子ジェットの生成領域付近の ダイナミクスをターゲットとするならば、やはりイオン慣性長以下の構造を 抑えられるようにするべきである。

以上、結論として磁気圏尾部のリコネクション領域における電子−イオン間の スケール間結合の問題をSCOPEのターゲットとするならば、衛星間距離はXYZ 共に数100 km〜1,000 kmであるべきだと考える。

サブストーム・オンセットプロセス解明の立場から:  内部磁気圏−尾部遷移領域においてサブストームの原因として鍵となる現象である カレント・ディスラプションやダイポーラリゼーションを説明するモデルは数多くあ り、全てのモデルを観測的に検証することは困難である。SCOPE衛星では宇宙プラズマ におけるクロススケール・カップリングの物理の解明を1つの大きな柱としている が、ここでは複雑な磁場配位を持った領域に存在する電流層の安定性という観点から 遷移領域自体に内在する過程の検証に主眼を置いて、衛星編隊の構成について考えたい。

尾部領域とはことなり、電流層を貫く磁場成分が無視できない程大きい遷移領域で は、電流層の厚さの変化に応じてプラズマ粒子の運動は複雑に変化する。このような 電流層中ではCFSI(cross-field streaming instability)と呼ばれている、一連の運動 論不安定がカレント・ディスラプションの原因であるとする1つの有力な説がある。 CFSIは変形2流体不安定性の枝である比較的短いスケールの現象と、非磁化されたイ オンの運動に起因するより長いスケールを持つイオン・ワイベル不安定を主な構成要 素とする。実際にはこれらのスケールの違う不安定間の非線形結合によって、カレン ト・ディスラプションや実際に観測されるような広い周波数領域にまたがる磁場変動 を説明できるのではないかと考えられている。また、これらと合わせて電流層境界領 域の低域混成ドリフト不安定も遷移領域での散逸過程として重要な役割を果たしてい ると考えられている。イオン・ワイベル不安定や変形2流体不安定の不安定モードの 波長はおよそイオン慣性長の数倍程度から電子ラーマー半径程度である。したがっ て、これらのモードのカップリングを観測するためには対応して〜1,000 km程度の衛 星間距離である必要があるのではないだろうか。過去の観測から数倍のイオンラー マー半径(〜数1,000 km)の範囲内で磁場変動が観測されており、遷移領域の自発的 な原因で現象が発生しているのであれば、このスケールを分離して観測することが重 要と思われる。

編隊構成について: 子機を増やす? 衛星間距離について、理想値はテーマによって異なる可能性があること、また、子機3は必ずしも十分ではないという指摘があったこと、を注意しておく。子機は現実的にどこまで増やせるのか、そのコストパフォーマンス、などは今後の議論課題としたい。