インパクト


磁気圏物理へのインパクト:ブラックボックスの排除

SCOPEミッションは、衝撃波、磁気圏境界、プラズマシート境界層、磁気圏尾部内外遷移層といった境界層を横切り、プラズマシートと内部磁気圏を探査する。SCOPEミッションの特徴は、 MC衛星群でグローバルな様相をモニターする中、これら鍵となる領域での鍵となる過程を 把握することにある。これらの領域において、MHDスケールから電子スケールに跨るスケール間結合を観測的に同定し、グローバルダイナミクスの文脈の中での局所ミクロダイナミクスの位置付けを 行ない、従来の定式化においてブラックボックス化されていたものを明確な形で定式化する。MC計画という強力なパートナーと電子スケール観測という新しい武器、そして、 スケール間結合という新しい視点、という三つが組み合わさることで、磁気圏物理において難問であり続ける、(1)高エネルギー粒子加速、(2)磁気リコネクションの発生、(3)プラズマシートの形成・維持、(4)オーロラサブストームの駆動、の解決に大きく寄与する。

宇宙惑星科学へのインパクト:スケール間結合という視点の確立

宇宙プラズマにおいては、大規模な現象においても、多くの場合、鍵となる局所領域がある。グローバルな変化は、鍵となる局所領域にとっては境界条件の変化であろう。その変化に呼応して、鍵となる領域内部でイオンスケールから電子スケールまで、スケールをまたがったダイナミクスの駆動と連携が発生する。その結果、グローバルな発展にも大きな影響を及ぼす散逸や輸送が発生し、大規模ダイナミクス・構造にフィードバックする。そして、それがまた局所領域に影響する。

粘性や電気抵抗といった、地上では当たり前の緩和現象がない磁気圏・宇宙空間における無衝突プラズマダイナミクスを理解するとは、上で述べたような形式で記述する新しい体系を構築することであろう。太陽コロナや木星磁気圏といった、地球磁気圏よりもMHDスケールとイオン・電子スケールとのギャップが大きい系において研究を新しい次元へと進めるためにも、このような理解を確立する必要がある。SCOPEはそのための実証的サポートを与える。

実用的なインパクト:宇宙天気予報への寄与

SCOPEから得られた科学的知見は実用面にもインパクトを与えうる。代表的なものの1つとして宇宙天気予報がある。宇宙天気予報は太陽地球系システムにおけるじょう乱現象(太陽フレア、地磁気嵐、プロトン現象等)を定量的に予測することであり、地球を含めた宇宙空間における人間活動を安全かつ安定に営むために必要なものである。

宇宙開発の現状から考えると、途中の過程をブラックボックスにしたままでも、経験に基づいて特定の領域の状態や物理量の変動をアドホック的に予測したり、第0近似的に予測したりするだけで宇宙天気予報は充分だとする考え方もあるかもしれない。しかし、そのようなアプローチでは対象領域が変わったり、拡大したりした場合には適用できない。また、我々は太陽からのエネルギーや物質の輸送形態とそのダイナミックレンジをすべて知り尽くしているわけではない。人類が今後宇宙へ活動領域を広げ、宇宙環境を利用していくことを考えるのであれば、精度の高い、汎用性のある宇宙天気予報の実現は必須であるといえる。

SCOPEは宇宙プラズマにおけるスケール間結合の理解を目標に掲げており、その中で磁気リコネクション、衝撃波における粒子加速、放射線帯粒子の生成や消滅といった物理過程の理解を目指している。これらの過程は太陽フレアやCME現象、プロトン現象、放射線帯フラックス変動といった、予報の重要性の高いじょう乱現象と密接に関わっている。SCOPEによって得られた知見はこれらのじょう乱現象の予報に向けた取組みを加速することが期待される。