PLANET-Cニュース 2004

2004年のPLANET-Cニュースです。

2004年11月16日

金星にある太陽系最長の川のような(?)地形について、 九州大学の押上さん・並木さんに「金星の科学」欄で解説していただきました。

2004年10月18日

プロジェクトの現状

今年4月に正式なスタートを切った金星探査プロジェクトでは現在、探査機の試作モデルを設計しています。

探査機には、金星の地表から高層大気までを観測するため、さまざまな波長の赤外線や紫外線などを測定する特殊なカメラが5台搭載されます。その際に重要なのは「探査機の内部をいかに涼しく保つか」です。赤外線はあらゆるものから放射され、温度が高いほど強いため、測定器自体が高温になると正確な測定ができなくなってしまいます。

金星は地球よりも4000万kmほど太陽に近いため、探査機の熱を効率よく宇宙空間に逃がすための設計(熱構造設計)や、搭載機器から発する熱を抑える設計に、地球を周回する人工衛星よりはるかに厳しい条件が課せられることになります。宇宙開発分野ではまだ利用実績の少ない部品を採用する必要もあり、放射線被曝試験も入念に行なっています。全国の研究機関やメーカーで構成される開発チームでは、将来の地球観測ミッションへの応用も視野に入れつつ、これらの開発を急ピッチで進めています。

中間赤外線カメラLIRの評価用モデルによる試験画像

写真は、搭載カメラのひとつである中間赤外線カメラLIRの評価用モデルによる試験画像です。被写体は温度をわずかに違えた2枚の黒い板で、その温度差が明るさの差としてはっきりと画像に映し出されています。このカメラは「非冷却ボロメータ」と呼ばれる新しいタイプの検出器を採用しており、検出器そのものを冷却しなくても赤外線の測定が可能です。そのため、冷却が必要な従来型の赤外線カメラに比べ、画期的に小型化されています。このカメラは、地球の気象衛星のように、金星の雲の細かな構造や運動を明らかにしてくれることでしょう。

(JAXA 今村剛)

2004年6月21日

金星の太陽面通過

パリ天文台にて

金星の太陽面通過を楽しむ人々

6月8日、日本では実に130年ぶりに「金星の太陽面通過」が起こりました。 これは、地球と金星と太陽が一直線に並ぶときに、地球から見て太陽の中に金星が影絵のように見えるというものです。 金星の公転軌道面が地球の公転軌道面に対して3度ほど傾いているため、ちょうど一直線に並ぶ機会はめったにありません。 次回は2012年ですが、その次は2117年となります。

日本ではあいにくの天気で、一部の地域を除いて観察は難しかったようですが、この日世界各地で多くの人々が太陽を見上げました。 折しも私はヨーロッパの金星探査計画との協力関係について協議するために訪欧しており、快晴の空のもと、太陽の円盤の中を小さな黒いしみのように金星が通り過ぎていく神秘的な光景を楽しむことができました。

(JAXA 今村剛)

2004年6月2日

長らく抜けていた近赤外カメラ1(IR1)のページが完成しました。「観測装置」欄からどうぞ。

2004年5月17日

名寄市立木原天文台で昼間に撮影された金星の紫外線画像

北海道の名寄市立木原天文台で金星の紫外線画像が得られています。可視光線では見えない雲の模様を確認できます。 VCO探査機は、この波長域で高解像度の撮影を行う紫外イメージャUVIを搭載する予定です。 開発を担当する北海道大学のグループと木原天文台による共同観測も行われています。担当の佐野様のご好意により紹介させていただきました。

2004年5月6日

「金星の科学」欄に金星の火山活動についての解説文をアップしました。 西はりま天文台の機関紙に掲載されたものをご好意により転載させていただきました。

2004年3月23日

試験風景

円筒状の真空容器の中に試験モデルが収められている

VCO搭載の赤外線カメラIR2は、高い性能を発揮するためにその検出器(100万画素)をマイナス210°C以下まで冷却します。また、カメラレンズや鏡筒から出る赤外線を低く抑えるため、光学系全体もマイナス100°C程度まで冷やされます。このとき、金属もガラスも収縮しますので、上手に設計しないと肝心のレンズが壊れてしまうことになります。

また、壊れないまでも、レンズお互いの位置関係(アラインメントと呼びます)が設計値から外れれば、きれいに像を結ばなくなってしまうでしょう。IR2開発グループでは、「所定温度まで冷却されたときに最高性能を発揮する」ようなレンズの押さえ方を研究し、試験モデルを用いてアラインメントの測定を行っています。画像は測定の様子(住友重機械工業、新居浜製造所にて)で、真空チャンバー中で冷やされた試験モデルのレンズ位置を、セオドライトと呼ばれる器具により精密測定を繰り返しています。

全測定の完了にはあと二週間ほどかかる予定ですが、初期の結果では金星気象の謎を解き明かすのに十分な性能を発揮すると思われる測定値を得ています。

 

(熊本大学 佐藤毅彦)

2004年3月10日

東北大学にて金星探査計画のサイエンス会議を開催しました。 サイエンス会議というのは、計画に参加している理学系の研究者を中心として科学観測のシナリオなどを話し合うもので、 これまでにも繰り返し開催してきています。 今回の議題は、プロジェクトの現状と今後のスケジュール、我らがVCOと欧州のVenusExpressの協力関係、各観測装置の開発状況、 今後の金星研究の進め方などでした。 プロジェクトの正式スタートを来月に控えて、これまでにない気合と覚悟が感じられたミーティングでした。

(JAXA 今村剛)

2004年2月24日

探査機のペーパークラフトをアップしました。関連リンクの「宇宙情報」から。

2004年2月20日

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部

中村正人(プロジェクトマネージャー)

金星探査プロジェクト・プラネットC(Venus Climate Orbiter)は火星探査機「のぞみ」に続く、第2のJAXA惑星周回ミッション、探査目的はその大気力学構造の解明です。 2010年ごろ金星に到達して金星の厚い雲の下に隠された大気の様子を調べます。

「大気力学構造の研究」とは我々に身近な天気予報を可能にする気象学の事。 VCOは丁度「ひまわり」のように、金星の雲の写真を一定時間毎に撮ります。何故? 金星人のための天気予報? 明日は午後から硫酸の雨、夜は晴れて地球がくっきりと見えるでしょう...。 もちろん違いますね。この観測は「惑星気象学」という大きな枠組みの気象学を打ち立てるためにとても大事なのです。 金星は地球の双子星ですが、その大気の動きは地球と全く異なっています。何故そんな事になってしまったのか? その事が解れば、我々は地球の気象のことがもっと良く判るようになるのです。地球気象学から惑星気象学へ。 このユニークな計画をもっている国は日本だけです。

JAXAの惑星ミッションはアイディアで世界と勝負。その為には、様々な新しい技術にもチャレンジしなければなりません。 世界的に見ても決して成功率は100%に及ばない惑星探査の世界。でも、我々もそれに立ち向かわなければならないのです。 日本が世界の一員となるために。任務の完了までには多くの試練が待ち受けているでしょう。 プロジェクトの正式なスタートは2004年4月。 これから我々が挫けないためにも、国民の皆様にミッションの必要性をご理解いただき、ご支援いただくことが必要です。 どうかよろしくお願いいたします。

2004年2月2日

暗室に置かれた近赤外カメラ1用バッファの試作品

この探査計画では、金星の夜側から発せられる赤外線の観測が科学成果の鍵を握ります。 ところが、夜側を見ようとすると必然的に、カメラの視野の近くにはるかに明るい太陽が入ってきます。 良質のデータを得るためには、金星の夜側より100万倍明るい太陽からの混入光を防ぐバッファ(フード)が必要となります。 今回の実験では、新設計により大きさをこれまでの約60%に改良したバッファの試作品を 臼田宇宙空間観測所の暗室(10m×10m×3m程度、壁・床・天井は黒色材)でテストし、近赤外カメラ1で必要とされる性能を満たせることを確認しました。

(東京大学 岩上直幹)

2004年1月30日

放射線試験の様子

作業をしているのは大学院学生の村地君

1月22日、千葉県にある放射線医学総合研究所というところで、 探査機に搭載する予定のいくつかの部品に放射線(加速した高エネルギーの陽子)を照射しました。 そして、それぞれの部品がどのくらいの放射線に耐えられるのかというデータを取得しました。 放射線医学総合研究所との共同研究として、このような実験をくり返し実施しています。

なぜこのような実験を行うのでしょうか。大気で守られた地球と違って、宇宙空間には強い放射線が満ちています。 そのため、人工衛星を作る際には、放射線にさらされても衛星の中の電子部品などが壊れないように十分な注意が必要です 。そこで、人工的に作った放射線を使ってあらかじめ試験を行い、衛星の設計に役立てるのです。 なお、この実験では放射性廃棄物は生み出されず、環境への影響はありません。

(JAXA 今村剛)

2004年1月16日

ホームページを完全リニューアルしました。不完全なところや不親切なところが多々ありますが、今後補っていきますのでご容赦ください。惑星探査の現場の息遣いをお伝えするために、なるべく頻繁にアップデートしますので、末永くよろしくお願い致します。ちなみに今日の金星は夕方の南西天にマイナス4等、です。

(JAXA 今村剛)