「のぞみ」の近況


 7月4日の打上げから,(この原稿執筆時点で約)1カ月経過した火星探査機「のぞみ」は,順調にパーキング軌道を回っている。この間に,7月4日11日19日8月1日4回の軌道制御を行い,9月24日に予定されている月スイングバイに向けて,準備を進めている。「のぞみ」の軌道は,長楕円で,遠地点では,月軌道を越え,静止衛星の10倍以上遠くまで達する。軌道を1周するのに2週間あまりを要し,打上げ以来,この楕円軌道を2周したところである。

 搭載機器の初期チェックが,打上げ直後より行われ,現在も進行中である。共通機器および観測機器ともに正常で,8月中旬には,観測機器の高電圧部分のチェックを最後に,初期チェックを終える予定である。すでにダストカウンタなど一部の観測機器は,観測を開始した。「のぞみ」搭載カメラの試験の過程で,地球や月の写真を撮影している。左の写真は,7月18日に,搭載カメラが撮った地球表面のクローズアップで,オーストラリアの北東部分が見られる。

 「のぞみ」は今後,9月24日および12月18日に月スイングバイを行って増速し,12月20日に地球の引力圏を脱して,火星に向けて長い旅路につくことになる。

(中谷一郎)

命名“のぞみ”

 宇宙科学研究所の衛星は,計画段階から打上げまでの間はASTRO-D(天文系の番目の衛星),PLANET-B(ハレー彗星探査に続く番目の惑星ミッション)のように英文名が用いられ,打上げ成功後和文の愛称がつけられます。まずは,宇宙研,各大学,メーカー等の実験関係者から投票で名称を募ります(“ようこう”の場合は例外的に一般公募)。ついで実験主任を含む長老グループが候補を絞り,その中からこのグループの合議によって最終決定されます。必ずしも最大得票名になるわけではありません。

 今回“のぞみ”と決まったことはご承知の通りで,投票者は,丸山進,吉山京子(以上宇宙研),平野寛幸(日産自動車),谷川数美(三菱電工)の皆さんでした。他に有力なものとして“みらい”“あかね”がありましたが,私が好きだったのは“一機火星”でした。投票者は上杉教授でまことに長老らしからぬ真面目な態度といえましょう。

(松尾弘毅)

ISASニュース No.209 (無断転載不可)