火山活動

 ―金星に活火山を探す―

以下の解説文は西はりま天文台の機関紙’宇宙NOW’に掲載されたものに加筆修正したものです。イラストは西はりま天文台にご提供いただきました(案:石田俊人、画:GEN)。

火山がおもしろい

太陽系には火山がたくさんある.これはボイジャーをはじめとする探査機が明らかにした事実のひとつである.探査機が撮像した惑星・衛星表面の高解像度画像を見ると、火山の活動によって形成されたと考えられる地形を多数見つけることができる.そしてこれらの火山は科学的に有用な情報を産み出してくれる、とてもありがたい存在なのである.

火星のオリンパス火山

太陽系で最大の火山.金星にも火山が作ったと考えられている地形が多数見つかっているが、活火山があるかどうかはまだわかっていない.現在は活動していない死火山である.(画像提供NASAとNSSDC)

木星の衛星イオの火山/p>

ボイジャー探査機によって火山噴火の噴煙が撮像され、活火山が存在することが明らかとなった.左の写真の噴煙を真横から撮影したもので、天体の左に少し飛び出したコーン状のものが噴煙.右上はその拡大図.右下は噴煙を吹き上げた火山を真上から撮った写真で、噴火で吹き上げられた物質が火山の周囲に堆積して模様を作っていることがわかる.(画像提供NASAとJPL)

火山を研究するといろいろなことがわかるのだが、いちばんおもしろいのは地面の下がどうなっているのかわかることである.そもそも火山とは地下にある熔岩が地表に噴き出してできた山なので、火山を調べると、どんな種類の熔岩が、どんなふうに、どれくらい噴出したのか、といった情報を得ることができる.そして熔岩はもともと地下にあったものなので、熔岩の性質から熔岩の生成した地下の状態を推測することができるのである.例えば熔岩の種類というのは、熔ける前の岩石の組成と、岩石が熔けたときの温度・圧力によって決まる.だから噴き出した熔岩の種類から、地下の岩石の組成や温度・圧力といったものを推定することができるのである.また噴火の様式は熔岩に含まれる水蒸気や二酸化炭素といった揮発性物質の量で決まるので、噴火の様式から熔岩に溶け込んでいた揮発性物質の量がわかり、そこから天体(惑星・衛星)内部にある揮発性物質の量を推定することができる.このように、地表にある火山を見ることで普通には見ることのできない地下の様子がわかることは、火山研究の大きな魅力のひとつである.

火山活動と熱史

太陽系で火山はありふれた存在であると書いたが、実はそれら火山のほとんどは現在活動していない死火山である.すなわち昔の太陽系ではいたるところに火山活動があったのに、現在はそのほとんど全てで火山活動が停止しているのである.熔岩を噴出するなどの活動を現在もしている活火山の存在は、これまでのところ地球とイオ(木星の衛星)だけでのみ確認されているにすぎない.現在の太陽系で活火山は非常にめずらしい存在なのである.

火山活動があるかないかということは、天体内部の温度によって決まるものと考えられている.温度が十分に高く熱い天体では岩石が熔けて火山活動が生じるが、温度が低く冷たい天体では岩石が熔けないので火山活動もないという理屈である.この理屈に従えば、火山の活動した年代を見ることで天体内部の温度変化の歴史を知ることができる.この温度変化の歴史は熱史と呼ばれ多くの研究がなされている重要な問題のひとつであるのだが、火山はこんなことにも関係しているのであった.

熱くなる理由

天体の温度が時間とともに変化するのには、いろいろな原因がある.宇宙空間にある固体物質を見てみると、そのほとんどは低温で岩石が熔けるような高温のものはまずない.これは宇宙というのが元来冷たい空間であり、熱い物体を置いておくと自然に冷却して冷たくなってしまう場所だからである.したがって冷たいのが当たり前のところに火山活動があったりするということは、なんらかの機構によって天体が加熱されたことを意味する.天体を加熱する機構はいくつか存在するが、重要なのは、(1)重力エネルギーの解放、(2)放射性元素の壊変、(3)潮汐加熱、の3つと考えられている.

(1)は天体が形成されるときに働く加熱機構である.天体は微惑星と呼ばれる10km程度の岩石の塊が衝突合体することによって形成されたと考えられているが、この衝突合体の際に衝突のエネルギーが熱となって天体を加熱するのである.太陽系内の天体の形成は45億年前までには終了したと考えられるので、この加熱機構が働いたのは45億年前までということになる.

重力エネルギーの解放による加熱

次に(2)は放射性元素が存在するときに働く加熱機構である.放射性元素とは自然に核分裂などを起こして壊変する元素のことで、壊変の際に熱を発生するので加熱源となる.放射性元素は主に超新星爆発などによって合成されるが、惑星や衛星の内部で合成されることはない.したがって惑星や衛星に含まれる放射性元素は時間の経過とともに壊変して減少していき、その発熱量もだんだんに減っていく.

これら(1)と(2)の加熱機構はどちらも、過去に天体を強く加熱し現在は働かないか働いても弱い加熱しかしないものである.したがってこれらの加熱機構で天体を加熱したならば、天体は過去の方が熱いということになる.この傾向は、火山活動が過去には多くあったが現在はあまりないという観測事実と定性的に一致する.ちなみに計算してみると、重力エネルギーの解放による加熱の強さは天体が大きくなるほど大きくなる.一方、冷却は単位体積当たりの表面積が大きいほど速くすすむので、天体は小さいものほど速く冷えることになる.すなわち、天体は大きくなるほど強く加熱され冷却しにくくなるのである.したがって太陽系における最大の固体天体である地球に活火山が存在する理由は、地球が大きく今でも形成時の熱を失っていないためであるとして説明することができるのである.

しかし、これではイオの活火山を説明することができない.イオは決して小さい天体ではないが火星はもちろん水星よりも小さい.火星や水星には活火山が存在しないのでこれらの天体はすでに冷えてしまったと考えられるのに、火星よりずっと小さいイオに活火山があることは矛盾なのである.したがって大きさで形成時の熱の保持が決まるとする理論が正しいとするならば、イオに活火山をつくりだす全く別の機構が存在しなければならない.そこで注目されるのが(3)の潮汐加熱である.これは強い重力の影響によって天体の形が歪んだり戻ったりするとき、歪みのエネルギーが熱に変わることによって生じる加熱である.イオは木星の強い重力の影響下にあるためこの潮汐加熱が強く働き、その結果として活火山の活動が維持されていると考えることができる.サイズの小さいイオに活火山が存在する理由は、その火山活動の源となる熱が地球のそれとは全く別の機構によって産み出されていることにあるのである.

潮汐加熱

活火山を見つける方法

ここでようやく金星の登場である.先に活火山の存在が確認されている天体は地球とイオだけと書いた.つまりこれまでの観測で金星に活火山は確認されていないのである.しかしこれは金星に活火山が存在しないことを意味するわけではなく、たんに金星の活火山を調べる方法が今までなかっただけのことなのである.金星はその全面が雲で覆われているため外から地表を見ることが難しく、金星の雲の下に活火山があったとしてもそれを見つけることができなかったというわけだ.しかし金星の大きさは地球と同程度であることを考えれば金星に活火山があっても不思議はないわけで、熱史の問題を考えるためにも金星に活火山があるかどうかをはっきりさせることは重要なことなのである.


金星のマート火山

金星にも火山が作ったと考えられている地形が多数見つかっているが、活火山があるかどうかはまだわかっていない.(画像提供NASAとNSSDC)

ところでこれまで観測する方法のなかった金星の活火山探索であるが、最近になって観測することが可能になりつつある.まず第一は雲を通して地面を観測する方法が発見されたことで、これによって活火山を探索するための扉が開かれた.そして第二が、金星探査計画や地球上の大望遠鏡(例えば、すばる望遠鏡、西はりま天文台の2m望遠鏡など)の存在である.火山のように小さいものを観測するためには高分解能の観測をおこなう必要があるのだが、これまで地上にある小型の望遠鏡ではこの要求を満たすことができなかった.しかしこれからは、この活火山探索をおこなうのに十分な高分解能の観測が可能となる.是非とも日本の探査計画や天文台によって金星に活火山が発見されて欲しいものである.

金星の近赤外線画像

雲より下の大気から射出される光が観測されていて、濃淡は雲の厚さが場所によって違うために作られている.金星の地面から射出される光を観測できる波長を使えば、イオの赤外線画像と同様に活火山のある場所を明るい点として同定することができる.(画像提供NASAとNSSDC)

イオの赤外線画像

赤外線の波長で撮像すると、活火山のある場所が明るい点となって現れる.(画像提供NASAとJPL)

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