PLANET-Cニュース

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2012年8月29日

相模原キャンパス特別公開と JAXA×博物館 金星探査機あかつき応援企画

ひと月前になりますが、7月27日28日の二日間に渡り「相模原キャンパス特別公開2012」が開催されました。プロジェクトでも「金星探査機あかつきの新たなる旅立ち」としてブースを出し、高利得アンテナ(HGA)、バッテリ、太陽電池パネルの試験モデルの展示や、加圧水槽を使った金星の90気圧大気の演示実験などを行ないました。先月「広報・教育素材」にアップした精密ペーパークラフトの配布もあり、たくさんの方にご来場いただきました。「あかつき」や金星についての質問だけでなく、温かい励ましの言葉も多くいただきました。いつも応援ありがとうございます。

また、その翌週には8月5日には相模原市立博物館にて、「JAXA×博物館 金星探査機あかつき応援企画」として「あかつきトークライブ」が開催されました。IR2開発担当責任者・佐藤の講演の他、加圧水槽による90気圧実験や探査機の実物大写真・金星大気や「あかつき」についての各種パネルの展示など行ないました。特別公開の翌週にもかかわらず50人を超える方々にご参加いただき、プロジェクトメンバーと「あかつき」を応援してくださっている皆さまの交流の場となりました!

参加者全員での記念撮影

講演に登場した「サングラスあかつきくん」(画:佐藤毅彦)

実はこの「JAXA×博物館 金星探査機あかつき応援企画」には続きがあり、今回と10月・12月・2月の計4回の開催が決定しています。次回は10月27日(土)午前にプロジェクトサイエンティストの今村の講演を中心としたイベントを予定しています。詳しい時間などについては、相模原市立博物館のホームページやtwitterでお知らせしたいと思います。

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2012年6月8日

中間赤外カメラによる金星夜面温度分布

 「あかつき」がおしりの傷を気にしながら金星から遠ざかりつつある2010年12月9日、搭載カメラによる金星撮像が試みられました。すでに「あかつき」は金星から60万キロメートルほど離れていましたが、中間赤外カメラは金星夜側ほぼ全面の赤外画像を得ることに成功しました。これまで地上からの撮像観測や探査機による分光観測の例はいくつかあったものの、探査機による中間赤外画像のスナップショットはこれが史上初めてです。

中間赤外カメラLIRによる金星夜面雲頂高度領域の温度分布

2010年12月9日撮影 [Taguchi et al., 2012]

 32枚積算画像を取得する約2分間に探査機の姿勢がぶれたため、積算前画像を位置補正して重ね合わせることで本来よりも少しだけ高解像度の画像を得ることができました。金星ディスクの中心から周辺へ向かって温度が下がって見える、いわゆる周辺減光の効果を詳しく解析すると、上層の雲粒子が減少していることが示唆されました。絶対温度は過去の観測と比較するとやや高めです。これは、実際に温度が上昇しているか上層の雲が薄くなって温度が高い下層が見えていると解釈されます。さらに、両半球の高緯度に見られる低温帯状領域(ポーラーカラー)や中低緯度の帯状構造やさらにその中に見られるより小さいスケールの温度構造などが確認できます。両極にはポーラーダイポールと呼ばれる高温域がかすかに捉えられているようです。これらの結果はおそらく日本の惑星探査機による地球以外の惑星に関する初めての科学成果です[Taguchi et al., 2012]。

 「あかつき」はメインエンジン以外は良好な状態が保たれています。早ければ2015年の暮れに次の金星周回軌道投入のチャンスが巡ってきます。周回軌道に入れば、この画像よりも格段に高解像度の画像が連続して得られると期待されます。我々「あかつき」プロジェクトメンバーは、多波長連続撮像による金星大気ダイナミクスの理解という目標を全くあきらめてはいません。それまで「あかつき」が暑さに負けず、健康でいてくれることを祈っています。

(中間赤外線カメラLIR責任者・立教大学 田口真)

M. Taguchi et al., Icarus, 219, 502-509, 10.1016/j.icarus.2012.01.024, 2012.

2012年6月5日

金星の太陽面通過

あかつきの打上げ2周年に際し、たくさんの応援のメッセージを頂きました。いつも温かな応援をありがとうございます。

明日6月6日はいよいよ「金星の太陽面通過」です。日食は 太陽-月-地球 が一直線でしたが、明日は 太陽-金星-地球 が一直線に並びます。この現象、前回は8年前の2004年6月8日でしたが、次回は2117年12月という遠い未来になります。金星の軌道面は、地球の軌道面に対して約3度傾いているため、太陽に金星が重なって見えることがとても貴重なのです。

観察するには太陽を見なければならないので、日食グラスなどを用いた適切な方法で、安全に気をつける必要があります。視力の良い人であれば、日食グラスを通して、太陽の30分の1サイズの金星が太陽面上にあるのを見つけることができるそうです。

2012年6月6日午前の「あかつき」と太陽(・金星)の位置

相模原市内から見た場合

天体ショーとしての「金星の太陽面通過」は「金環日食」よりも希少なイベントと言えます。金星の太陽面通過が人類によって初めて観測されたのは、天体望遠鏡が発明された少し後、1639年のことです。その後、1761年・1786年、1874年・1882年、そして2004年・2012年と今回でまだ7回目です。「皆既日食」や「金環日食」は、世界のどこかでは1年に1回ほど起こっています(もちろん見に行くためには時間とお金が必要ですが)。対して、「金星の太陽面通過」は、地球人である以上、今回が今を生きる私達にとって人生でラストチャンスです。

前回の金星の太陽面通過のあった2004年、「あかつき(Planet-C)」は金星探査プロジェクトとしてスタートを切りました。当時からヨーロッパの金星探査チームとの交流は深く、2004年6月8日にはプロジェクトサイエンティストの今村がパリで開催された会議に参加していました。当時の様子は 「PLANET-Cニュース 2004」 にも書かれています。

2012年5月20日

打上げ2周年と金環日食と金星の太陽面通過

明日5月21日は2010年の打上げから2周年の日です。 打上げ時刻は6時58分22秒ですが、ちょうどその頃は日本各地で日食を見ることができます。 更に幸運な地域では7時20分〜40分の間の数分間(場所によって時間は異なります)に、金環日食を見ることもできます。

2012年5月21日6時58分22秒の「あかつき」と金星と太陽(・月)の位置

相模原市内から見た場合の東の空

上の図は打上げ時刻での「あかつき」・金星・太陽(・月)の位置関係です。太陽観察の楽しみ方は JAXA教育センターのページ国立天文台のページをご覧ください。 正しい観察方法で、日食を安全に楽しみましょう! 一方、この日の「あかつき」と地球の距離はおよそ1億6000万kmで、太陽より少し遠いくらいです。臼田局64mアンテナは「あかつき」とやりとりが出来ますが、残念ながら私たちの目で見ることはできません。日食観察の際に「今はあの辺りか」と遠い宇宙を進む「あかつき」に思いを馳せていただければ幸いです。

そして、太陽の少し東側には金星も上ってきています。肉眼で見つけることはかなり難しいですが、惑星観察に長けた人には金星撮影も可能だそうです。今は太陽からこれだけ離れている金星ですが、およそ半月後には「内合」を控えています。今年の内合は特別で、「金星の太陽面通過(日面通過)」と呼ばれる百数十年に2度しかない珍しい現象を見ることができます。「金星の太陽面通過」は、地球・金星・太陽が一直線に並ぶことで、地球から見ると金星が太陽の上を通り過ぎていくように見える現象です。国立天文台のウェブサイトには 特設ページが用意されていますので、観察の際には参考にしてください。

2012年5月11日

2010年5月21日の打上げから、まもなく丸2年になります。 いつも温かい応援をありがとうございます。

「あかつき」プロジェクトにとっての2011年は、破損した主エンジンの噴射試験、酸化剤の投棄による軽量化、姿勢制御用の小エンジンによる軌道変更、と初めての挑戦が続きました。2015年の再会合を目指すと同時に「約1300万kmの距離からの金星観測」「太陽コロナ電波掩蔽観測」など、今の「あかつき」だからこそ出来る科学観測も実施しました。 軌道投入失敗からちょうど一年を迎えた2011年12月第二週には、サンフランシスコで開催されたアメリカ地球物理学連合2011年度秋季大会(2011 AGU Fall Meeting)で、これらの観測成果についての発表も行いました。 「一番星へ行こう!」のコーナーでは、日本惑星科学会学会刊行物「遊・星・人」に掲載した紹介記事(PDF)へのリンクをはっています。 ここ(PLANET-Cニュース)でも今後、それぞれの担当者から観測についてご紹介していきたいと思います。

幸いにも「あかつき」は2015年に再び金星に出会う軌道の上で2012年を迎え、現在も順調に飛行を続けています。このプロジェクトサイトでのご報告が1年ぶりになってしまったこと、申し訳ありません。簡単ではありますが、昨年秋の軌道制御について紹介します。

「あかつき」の新たなる旅立ち

2011年11月、「あかつき」は新たなスタートを切りました。本来は姿勢制御用の4基の小さなエンジン(RCS)を3回にわたって長期連続噴射し、合わせて約240 m/sの速度変更を行い、2015年11月に金星に会合する軌道に入りました。

現在の「あかつき」と金星と地球の軌道(座標の単位は億km)

ISASニュース2011年12月号(No.369)より抜粋(作成:廣瀬史子)

2010年12月の金星周回軌道投入運用では主エンジン(OME)が途中で停止したため、「あかつき」は金星の横を素通りしてしまいました。このときは燃料を押し出すための高圧ガス供給のバルブの動作不良が引き金となり、主エンジンの燃焼器が異常な高温を経て破損したと推定されています。

金星を通り過ぎた「あかつき」はその後、太陽の周りを周回しています。燃料の大半がまだ残っているため、まずはOMEに再度点火して金星を目指すことが検討されました。問題はOMEが使用に耐える状態であるかどうかです。かくして2011年9月に試験噴射を行いましたが、OMEの現状ではもはや今後の軌道制御に必要な推進力は得られないということがわかりました。

残された手段は、姿勢制御用の小エンジン(RCS)による軌道制御です。OMEが燃料と酸化剤を混合燃焼させて推力を得る2液式エンジンであるのに対し、RCSは燃料を触媒反応で分解させて推力を得る1液式エンジンです。今後RCSしか使わないとすると酸化剤は無駄な重量であり、また酸化剤の重量を抱えたままでは金星で条件の良い軌道に入れることが難しいことがわかりました。そこで2011年10月に3回に分けて、もともと予定になかった酸化剤排出を行い、約65 kgの軽量化に成功しました。

2011年11月1日、RCSによる第1回目の軌道制御を実施しました。もともと姿勢制御用のエンジンであるRCSにとって、10分間に及ぶ長期連続噴射は初めてのことでした。予期せぬ事態に備えて緊張して臨みましたが、計画通りの安定した加速が得られました。続いて11月10日と11月21日にもほぼ計画通りに軌道制御を行ない、2015年秋に再び金星に会合する軌道にのりました。

周回軌道への入り方は観測や機体の状態を考慮して、今後検討していくことになります。ともあれ、予定よりずいぶん遅くはなりましたが、「あかつき」が金星に到達する目処が立ちました。改めてスタートラインに立った気持ちで観測計画の再構築を行なっています。